魚の油に含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やイコサペンタエン酸(EPA)は頭にいいと言われ、様々なサプリメントなどの関連健康食品があります。
DHAやEPAは多価不飽和脂肪酸と呼ばれる脂肪酸ですが、なぜこれが頭の良し悪しにつながるのか調べてみました。
神経細胞の成長に必須
大人になっても神経細胞は作られる
つい最近まで哺乳類の神経細胞数は、一定数まで増えるとそれ以上の数にはならないと考えられていました。
しかし、ネズミを用いた実験によってこれが誤りであると判明しました。
具体的には、ネズミを遊び道具が豊富な環境で飼育した場合、大人のネズミの海馬(短期記憶を司る脳の部位)で生まれる神経細胞の数が増えるという現象が確認されたのです。
さらに、以下に引用する実験で人間の脳でも神経細胞の増加が確認されています。
新しく分裂して増えた細胞を調べるために、細胞に色をつけるブロモデオキシウリジン(BrdU)という薬剤を使った実験です。
ある外科手術の前に、ガンの悪性度を知るためにDNAの構造材料に似た「BrdU(ブロモデオキシウリジン)」という薬剤を注射しました。摘出したガン組織にBrdUがたくさん見つかれば、そのガンは増殖力が強く悪性だとわかるため、化学療法や放射線照射などの補助療法をしないといけない、と正確に病理診断を下すことができるからです。
しかし、それらの治療をそばで見ていた脳科学者のエリクソン博士は全く別のことを考えていました。
「これまでのネズミなどの実験データがもし本当なら、これらのガン患者の海馬においてもBrdUを取り込んだ全く新しい神経細胞が誕生しているに違いない」
その推測から、一部の患者がガンの再発で亡くなると、エリクソン博士は遺族の許可を得て、脳の解剖をさせてもらいました。そして、海馬の組織切片を顕微鏡で観察した博士は感嘆の声をあげました。なんと、ヒトの海馬にも、確かにBrdUを取り込んだできたてホヤホヤの神経細胞がたくさん見られたのです。
サラダ油が脳を殺す —「錆び」から身体を守る
(40ページ)
海馬の神経細胞が増えるとどういう影響があるのかは、人間の脳では確かめられていませんが、マウスの場合は空間記憶能力の改善が確認されているそうです。
DHAと神経細胞の関係
大人でも神経細胞が増えることがわかりましたが、DHAと神経細胞にどのような関係があるのでしょうか。
神経細胞がネットワークを作る為には、その細胞自体が樹状突起スパインを伸ばしてシナプスを作る必要があります。
樹状突起スパインとは神経細胞の樹状突起から突き出ている小区画であり、脳のほとんどの興奮性シナプスの入力を『受信』しています。樹状突起スパインは脳の正常な成熟課程を通じて成長し、精神遅滞や認知障害など、人間の多くの神経病では失われたり異常に変形したりします。また、樹状突起スパインは可動性を備えており、動物の経験や脳の電気的通信に応じて数や形状が変化します。例えば、豊かな環境で育てられたラットは、刺激の少ない環境で生きているラットよりも多数のスパインを持っています。
このスパインを伸ばすためにDHAが不可欠なのです。
最近発表された論文によると、血液中の多価不飽和脂肪酸の量が少ないネズミAと多いネズミBのスパインの数を比較すると、ネズミBの方が圧倒的に多いそうです。つまり、血液中の多価不飽和脂肪酸の量が多ければ多いほどスパインの数が増えることを意味しています。
しかも、その論文では、血液中の多価不飽和脂肪酸によってスパインの数が増えたネズミは、記憶力も良くなったことが報告されています。
サラダ油が脳を殺す —「錆び」から身体を守る
(41-42ページ)
また参考書籍の著者の研究グループでも、多価不飽和脂肪酸(DHAとアラキドン酸)による記憶力回復が確認できたそうです。
脳梗塞や脳挫傷によって脳の一部が傷つき、これによって記憶障害が起きた場合は、DHAとアラキドン酸をバランス良く補充すれば、ある程度記憶力が回復することを私の研究グループが確認しています。
…
脳卒中で倒れても、まずは三週、次に三ヶ月、ひいては三年待てば、徐々に一定の回復が期待できる。これはまぎれもない事実です。しかし、良質の多価不飽和脂肪酸を補充すれば、海馬における神経細胞の誕生を促進し、しかも、できたてホヤホヤの神経細胞の機能をさらに高めることが可能なのです。
サラダ油が脳を殺す —「錆び」から身体を守る
(42-43ページ)
DHAの不足が目と脳の病気を引き起こす事実
DHAが不足すると、脳や視力の異常、さらにアルツハイマー病やうつ病などが発症することが確認されています。
ドコサヘキサエン酸 (DHA, 22 : 6n-3) は神経細胞膜リン脂質の構築成分であるn-3系必須不飽和脂肪酸であり, 正常な脳の発達や視力を維持するのに極めて重要である。
脳内のDHAが欠乏すると, 神経伝達系, 膜結合型酵素やイオンチャネル等の活性, 遺伝子発現, およびシナプスの可塑性, 等に著明に影響を及ぼし, そのためにDHA欠乏は, 加齢に伴う脳機能異常, アルツハイマー病, うつ病, ならびにペルオキシソーム病などを誘発する。
また, DHAの摂取不足は認知・学習機能を低下させるが, DHA摂取によりこの機能は回復するようである。
実際にDHAの不足による病気の発症も確認されています。
魚油ことにDHAが脳を育て、目を健康に保つのに必須のものであることは、世界中のママさんたちは経験的に知っていました。なぜなら、第二次世界大戦さなかの栄養不足で母乳が十分に出ず、人工ミルクも手に入りにくかった時代に生まれた赤ちゃんに、脳や目の病気が多発したからです。
逆に、DHAを一定量添加した人工ミルクで育てられた赤ちゃんは、母乳で育てられた赤ちゃんよりも知能指数が高くなることが最近の研究でわかっています。
DHAやEPAなどのピューファーを摂取すると、頭の回転が良くなるだけではなく、うつにもなりにくく、血液のサラサラ度が増すことがわかっています。
サラダ油が脳を殺す —「錆び」から身体を守る
(55-56ページ)
ピューファー(PUFA: Polyunsaturated Fatty Acid)とは多価不飽和脂肪酸のことです。
その他の効果
神経細胞とは別の話になりますが、DHAやEPAは肝臓がんや乳がんの発症率を抑えるという実験結果が報告されています。
約9万人の日本人を対象にした調査によって、EPAやDHAを多く含む魚をよく食べる人は、殆ど食べない人に比べ、肝臓がんを発症するリスクが4割近く下がることがわかりました。
…
すでに肝臓がんにかかっている患者に限定しても、EPAやDHAを多く含む魚を食べるほど肝臓がんのリスクは下がっていました。
…
米欧とアジアを合わせた約90万人を対象にした分析結果でも、EPAやDHAを最も多く摂取したグループは、最も少ないグループに比べ、乳がんのリスクが14%低下していました。
中央公論新社 中川恵一 知れば怖くない 本当のがんの話 (2017/1/15)
おしまい
以上のように、DHAやEPAが神経細胞の生成に深く関わっていることが実験結果として確認されています。これが、DHAやEPAが頭に良いとされる理由です。
今回は以下の書籍を参考とさせていただきました。脂肪酸と脳細胞の関係が詳しく書かれています。
毎日魚を食べるのは大変という方は、サプリで補充するのが楽でいいと思います。
DHC EPA 20日分 60粒
DHC EPA 20日分 60粒
2 件のトラックバック